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日本の子どもたちは幸せなのか?~子どもの自殺の現状から見える実態

更新:2022.2.19

日本で暮らす子どもたちは幸せなのか? 世界的に見れば日本の経済力は高く、豊かで、医療・衛生環境も比較的整っている国だと言えるでしょう。その意味では「日本に生まれる子どもは幸運」とも考えられますが、その日本が、実は「子どもの自殺が多い国」だと聞くと驚く方も多いのではないでしょうか。

日本の10代の死因1位は自殺

厚生労働省の「自殺対策白書」に10代の死因の国際比較が載っています。それによると、日本は死因の1位が自殺となっており、人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺死亡率もG7 の先進諸国に比べて高い水準にあります。

先進国の年齢階級別死亡数及び死亡率(10~19歳、死因の上位3位)

日 本(2018) フランス(2016) ドイツ(2018) カナダ(2016)
死 因 死亡数 死亡率 死 因 死亡数 死亡率 死 因 死亡数 死亡率 死 因 死亡数 死亡率
第1位 自 殺 602 5.4 不慮の
事故
412 5.2 不慮の
事故
334 4.3 不慮の
事故
276 7.0
第2位 不慮の
事故
304 2.7 悪性新生物(がん) 180 2.3 自 殺 192 2.5 自 殺 232 5.9
第3位 悪性新生物(がん) 225 2.0 自 殺 152 1.9 悪性新生物(がん) 190 2.4 悪性新生物(がん) 104 2.6
アメリカ(2017) イギリス(2016) イタリア(2017) 韓 国[参考](2019)
死 因 死亡数 死亡率 死 因 死亡数 死亡率 死 因 死亡数 死亡率 死 因 死亡数 死亡率
第1位 不慮の
事故
4,790 11.5 不慮の
事故
329 4.4 不慮の
事故
302 5.2 自 殺 298 5.9
第2位 自 殺 3,005 7.2 悪性新生物(がん) 198 2.7 悪性新生物(がん) 192 3.3 不慮の
事故
139 2.8
第3位 他 殺 2,002 4.8 自 殺 165 2.2 自 殺 85 1.5 悪性新生物(がん) 109 2.2
注)「死亡率」とは、人口10万人当たりの死亡数をいう
*出典1

日本の自殺者数自体は、新型コロナウイルス流行前の2019年まで減少傾向にありました。人口減の影響を除いた人口当たりの数値でみると、2018年までの10年で20代では約3割、40代以上については4割以上低下しています。しかしその一方、20歳未満については、他の年代に比べて絶対数は低い水準ながら、逆に14%増加してしまっているのです。

自殺の理由は分からないことも多い

ただこうした自殺の要因の分析をする際に忘れてはならないのは、「なぜ自殺をしたのか」という問いに対する明確な答えを出すのは、難しいケースも多いということです。自殺は事後の本人への聞き取りが不可能です。遺書や周囲への相談があるとは限らず、仮にあったとしても、特に子どもの場合は表現力などの課題がありそこにすべてが表れているかは分かりません。さらに、家庭や学校、健康などの様々な要因が複雑に重なり合います。要因分析が難しいということは、その防止対策の策定も非常に困難になるということです。

警察庁の自殺統計では、生徒・児童の自殺と思われる死亡案件のうち、10代前半では30%以上、後半以降でも25%前後は「判断資料なし」として処理されています。

出典3 判断資料なしの比率
*出典2

証言者の立場によって見え方も変わります。文部科学省は、警察が事実として把握している理由以外でも、関係者からの情報があれば該当する項目を複数回答で集計した調査をしています。それによると自殺の理由が「不明(普段の様子と変わらず、特に悩みを抱えている様子はなかった)」となった割合は、小学校71.4%、中学校48.5%、高等学校53.4%と、いずれの段階でも高くなっています。

なお、本調査対象は国公立私立の小中高等学校となっており、学校関係者へのヒアリングも含まれていますが、学校が事実として把握しているものを中心としていることに注意して読み解く必要があります。

自殺した児童生徒が置かれていた状況(国公私立回答)

   小学校  中学校  高等学校  計
人数(人) 構成比(%) 人数(人) 構成比(%) 人数(人) 構成比(%) 人数(人) 構成比(%)
 家庭不和 0.0  17  16.5  36  11.8  53  12.8 
 父母等の叱責 14.3  21  20.4  11  3.6  33  8.0 
 学業等不振 *1 0.0  8.7  11  3.6  20  4.8 
 進路問題 *2 0.0  10  9.7  34  11.1  44  10.6 
 教職員との関係での悩み 0.0  1.9  0.7  1.0 
 友人関係での悩み
(いじめを除く) *3
28.6  8.7  14  4.6  25  6.0 
 いじめの問題 *4 14.3  4.9  2.0  12  2.9 
 病弱等による悲観 0.0  2.9  10  3.3  13  3.1 
 えん世 *5 0.0  5.8  16  5.2  22  5.3 
 異性問題 0.0  0.0  11  3.6  11  2.7 
 精神障害 0.0  5.8  40  13.1  46  11.1 
 不明 71.4  50  48.5  163  53.4  218  52.5 
 その他 0.0  10  9.7  2.0  16  3.9 
※調査対象:国公私立小・中・高等学校。小学校には義務教育学校前期課程、中学校には義務教育学校後期課程及び中等教育学校前期課程、高等学校には中等教育学校後期課程を含む
※当該項目は自殺した児童生徒が置かれていた状況について、自殺の理由に関係なく、学校が事実として把握しているもの以外でも、警察等の関係機関や保護者、他の児童生徒等の情報があれば、該当する項目をすべて選択するものとして調査

*1 成績が以前と比べて大幅に落ち込んでいた/授業や部活動についていけず悩んでいた 等
*2 卒業後の進路を悩んでいた/受験や就職試験に失敗した/志望校の受験が困難だ
と告げられた 等
*3 友人とけんかをし、関係がうまくいかずに悩んでいた/クラスになじむことができずに悩んでいた 等
*4 いじめられ、つらい思いをしていた/保護者から自殺した児童生徒に対していじめがあったのではないかとの訴えがあった/自殺した児童生徒に対するいじめがあったと他の児童生徒が証言していた 等
*5 世の中を嫌なもの、価値のないものと思って悩んでいた 等

*出典3

またこの調査は複数回答なので、何かしらの要因を回答した人がいれば理由は「不明」にはなりません。しかしそれでも多くの自殺の原因が不明ということは、自殺の理由はそれほど分からないことが多いということを示しています。(いじめが原因となった生徒児童の自殺については、「不登校やいじめの数って?~文部科学省の資料では見えない現状」に詳細を記述しています。)

子どもの自殺は判断材料がないものが少なくない前提は踏まえつつ、現状で分かっているデータを見ていくと、子どもの自殺を巡っては、学校の長期休暇が明ける4月と9月のタイミングでの件数が増えることが知られるようになりました。もちろん学校だけが自殺の要因とは限りませんが、子どもにとって生活時間や人間関係の多くを占める学校が何かしらの引き金になるケースが一定程度あることを推認させるデータになっています。

出典4 18歳以下の日別自殺者数
*出典4

日本の子どもの「精神的幸福度」は38カ国中37位

ユニセフが2020年に公表した先進国の子どもの幸福度に関する報告書「レポートカード16-子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か」によると、日本は死亡率や肥満率による「身体的健康」は38カ国中1位であるにも関わらず、「精神的幸福度」においては最下位に近い結果になっています。ここで言う「精神的幸福度」とは、生活満足度と自殺率を指標とするものです。

子どもの幸福度の順位表(38カ国中)

総合順位精神的幸福度身体的健康スキル
・生活満足度 *1
・自殺率
・過体重、肥満率
・子どもの死亡率
・学力 *2
・社会的スキル *3
7フランス7185
14ドイツ161021
19イタリア93115
20日本37127
21韓国341311
27イギリス291926
30カナダ313018
36アメリカ323832
*1 「生活に満足している」と答えた15歳生徒の割合
*2 読解力・数学分野で基礎的習熟度に達している15歳生徒の割合
*3 「すぐに友だちができる」と答えた15歳生徒の割合
*出典5

日本は「生活に満足している」と答えた15歳の子どもの割合が38カ国中37位と、2番目に低い国でした。レポートではその直接的な原因については詳報していません。ただ自殺率の高さにも触れ、日本の子どもの精神的幸福度の低さを指摘しています。

出典6 生活満足度が高い15歳の子どもの割合
*出典6

日本ユニセフは、子どもの幸福度に関連することとして、日本は長時間労働をする大人の割合が多く家庭と仕事のバランス維持が困難な国であること、学校への帰属意識が低い子どもが生活に満足している割合が低いことを指摘しています。

これらの要因がそのまま子どもの自殺につながっているとは言い切れませんが、行動範囲のまだ狭い子どもにとって、家庭と学校はほとんどの時間を過ごす場所であり、自殺につながる要因が生まれやすい場所でもあります。ユニセフの指摘について考えることは、子どもの自殺を減らすことにもつながることではないでしょうか。

子どもの自殺は、子どもにとって何かしらの「生きづらさ」を私たちの社会が抱えていることの表れと考えられます。子どもの自殺をなくすというのは非常に難しい課題ですが、子どもたちの生きづらさを少しでも解消していくために何ができるか、それを大人が考えることをやめてしまっては、何も変わらないことは確かです。

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