2024年、小中高生の自殺者数は529人*1と過去最多になりました。大人を含む日本全体の自殺者数は減る一方で、小中高生の自殺が増えています。いま子どもたちに何が起きているのか、なぜこうした事態に陥っているのか、精神科医の松本先生に聞きました。
*1 厚生労働省自殺対策推進室/警察庁生活安全局生活安全企画課『令和6年中における自殺の状況』

原因が分からないまま増え続ける子どもの自殺
――10代の自殺が増え続けています。今、子どもたちに何が起きているのでしょうか?
それは本当に今もって謎なんです。
コロナの影響だと言われますが、コロナ以前から増加傾向にありますし、コロナが収束した後も増え続けています。少子化がすごい勢いで進んでいるにもかかわらず、自殺者は増えている。このことについては何が原因なのか、誰も明確には言えないと思います。
何らかの理由で今、子どもたちにとっては生きにくい社会になっているのかもしれない程度のことしか言えない気がしますね。

厚生労働省自殺対策推進室・警察庁生活安全局生活安全企画課「令和6年中における自殺の状況」P14より3keys作成
――10代の自殺の特徴のようなものはあるのでしょうか?
子どもの場合、死のうと思ってから行動を起こすまでの時間が短いです。
「もうダメだ。死ぬしかない」と思ってからが早いんですよね。非常に衝動的で、周囲には気づかれにくいです。自傷行為に関するデータにはなりますが、半数以上の青少年は自傷を考え始めてから1時間以内に実行しています*2。
ただ、計画性が低いので、気づかれて介入されると、あきらめやすいという側面もあります。これが中高年の男性だと数ヶ月、中には数年経って行動に移す方もいます。そうすると、あれこれ考え抜いて結論を出すのでなかなか撤回できず、止めにくいんです。
子どもの場合は気づかれにくい一方、運が良ければ支援のしやすさもあると言えます。
*2 『自傷と自殺―思春期における予防と介入の手引き』キース・ホートン他 著 , 松本俊彦・河西千秋 監訳(金剛出版,2008)
――とはいえ、なぜ増えているかが分からないと対策も難しいですよね。
子どもの自殺対策は本当に難しくて、まず、衝動的におこなわれるがゆえに何が原因だったのかを探ることが難しいんです。
成人の自殺既遂者*3に比べて子どもの自殺既遂者は、直前に精神疾患の診断がつく人が少ないことが数々の調査で指摘されています。精神疾患というのは内面の問題なので、本人が言語化できないと周囲には分かりにくいんですね。うつ病であれ、統合失調症であれ、言葉にされないと診断のつけようがないんです。
自殺既遂者のご遺族を対象にした実態調査でも、はっきりとした原因はつかめていません。思春期に入ると、急速に大人に対する秘密が増えますよね。家庭と学校で見せる顔も異なりますし、友達によっても見せる顔は異なるので、内心は分からないのです。
*3 自殺を実行して結果的に死に至った場合を「自殺既遂(じさつきすい)」といい、実行して失敗した場合を「自殺未遂」という。
――逆に言えば、リストカットをするような子はサインが見えるだけ、止めようもあるかもしれないということでしょうか。
僕はそう思っています。
もちろん、子どもの自殺のすべてがリストカットを始めとする自傷行為と関係しているわけではないですけれども、自殺リスクの高い一群ではあります。現状で子どもの自殺対策を立てるとするならば、まず手をつけられるところではあると思います。
リストカットに逃げ込む子どもたちの気持ち
――リストカットをする子はどのぐらいいるのですか?
2021年に国立成育医療研究センターのコロナ×子ども本部が3歳から高校生の思春期前期の子どもの保護者を対象におこなった調査*4では、17%の子どもが1か月以内に「体に傷をつけた(ようだ)」と回答しています。生涯経験率*5で言えばさらに増えるでしょうから、5人に1人と言っても過言ではないかもしれません。
*4 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター コロナ×こども本部「コロナ×こどもアンケート第6回調査 報告書」
*5 これまでに一度でも特定の経験をしたことがある人の割合
――リストカットというと、実際に死にたいというよりは自分に構ってほしいというアピールのようなイメージもあります。
そういった例もありますが、自傷行為が周囲に発見されるケースは全体のわずか4%に過ぎません。
自傷行為の多くは不快感情の軽減を目的としておこなわれています。周囲に助けを求めるのをあきらめた子どもが、せめてしんどい気持ちだけでも解決しようとして自傷を始めるんです。体を傷つけることで心の痛みを紛らわせているんですね。
リストカットをした直後の子どもの表情を見ると、非常に穏やかです。一説には、リストカット直後には脳内麻薬が出ているとも言われます。皮膚を切ると同時に、つらい記憶や感情を自分から切り離しているんです。
こういったことを子どもは隠れてやっているし、やったことを人に言うこともありません。多くは人知れず、孤独な対処としておこなっています。
――隠れてやっているならば、5人に1人というのも大袈裟ではなさそうですね。
多くは人目を忍んでおこなわれますが、自傷行為というのはエスカレートしやすくて、ある段階で派手になってしまうことがあります。
切ればホッとする。でも、リストカットするほどつらい気持ちになる原因については対処していないわけですから、問題は解決していません。つらくなるたびに繰り返していると、次第にちょっと切るだけでは落ちつかなくなり、傷つける範囲や程度、頻度が増していきます。
すると、周囲に発覚して驚かれるわけです。これまでいくら大人に助けを求めても気づいてくれなかったのに、こうすれば気づいてもらえるんだと発見すると、二次的にアピール的になるケースはあります。
ただ、これもアピールというより、子どものSOSのコミュニケーションの一つと捉えたほうがいいと思っています。リストカットの効果が薄れて、切ってもつらいし切らなくてもつらい状態になってくると、死につながるような手段をとってしまうこともあるからです。
子どものつらさを大人はジャッジできない
――リストカットを見つけた時、大人はどう接すればよいのでしょうか?
「どうしたの?」と冷静に聞くことです。
何があったのかを尋ねても答えられないかもしれません。言うことができれば自傷はしませんから。
多分「分からない」「なんとなく」ぐらいしか言えないんだけど、そうしたら「そうか。今は言えないか。でも何かあったんだね」と、普通に対応してあげればいいんです。
――騒がず冷静に対応する。分かっていても難しそうです。
切った後は大体落ち着いてるので、「どう?今ちょっと落ち着いてる?もし言えそうだったら、今日じゃなくていいからまた話してね」と、優しく声をかけてあげればいいんです。あるいは血が出ているから簡単に手当をしてあげるとか、少し休んでもらうとか、ひとまずはそれくらいで十分です。
過剰に優しくする必要はなくて、普通に心配してあげることが大事です。
――リストカットの他にも自殺のサインのようなものはあるのでしょうか?
オーバードーズ(市販薬の過剰摂取、OD)、アルコールや薬物の乱用、摂食障害もリスクが高いと言われています。
虐待やいじめを受けている子もそうです。あとは、学校で居場所や出番のない子たち。
生まれつきの障がいなどで容姿や能力が周囲から逸脱している子はいろんなことの標的にされやすく、自殺リスクも高くなることが分かっています。
ただ、こうして挙げていくと、クラスの3分の1ぐらいが高リスクになります。これがまた難しいところで、危険因子を持っている子の中から本当に危ないのは誰かを絞り込む手立てがないんです。
死にたいと思う子は多い。ただ、その中で実際に行動に移す子はごく一部です。しかも、子どもの場合、衝動的に行動する可能性があります。
今、亡くなっていない子の中には結果として死ななかった、様々な事情で行動に至らなかった子もいます。死にたい気持ちの強さでいえば、亡くなった子とそうでない子との間にそれほど差がない可能性もあるんです。
――多くの子がつらい気持ちを抱えていて、特別な子だけが自殺に至るということではないんですね。
小学校4年生くらいまでは家庭が世界のすべて、それ以降も高校2年生くらいまでは学校が世界のすべてです。その中で行き場がないと、人生おしまいという気持ちになっちゃうんですよね。
大人の場合にはいろんな選択肢が分かっているけれども、子どもはそうではない。大人よりも子どものほうが追いつめられやすいということは理解しておいたほうがいいと思います。
参考
『自傷と自殺―思春期における予防と介入の手引き』キース・ホートン他 著 , 松本俊彦・河西千秋 監訳(金剛出版,2008)
『子どもの虐待とネグレクト Vol.27-3』.291-298「子どもの自殺総論ー最近の動向と注目すべきトピックー」松本俊彦

松本俊彦
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所薬物依存研究部部長
同センター病院薬物依存症センター センター長
1993年佐賀医科大学卒業。横浜市立大学医学部附属病院精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所司法精神医学研究部、同研究所自殺予防総合対策センターなどを経て、2015年より現職。近著に『誰がために医師はいる――クスリとヒトの現代論』(みすず書房,2021)、『世界一やさしい依存症入門 やめられないのは誰かのせい?』(河出書房新社,2021)
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