増え続ける子どもの自殺に対し、自殺予防教育なども進められています。しかし、自殺者数は一向に減りません。この現状に対して大人はどうしていけばいいのか、精神科医の松本俊彦先生に伺いました。

子どもが大人に「助けて」と言えるようにするために必要なこと
――学校ではSOSの出し方教育*1がおこなわれていますが、やはり相談をしてもらわないことには助けられないのでしょうか。
*1 厚生労働省「自殺総合対策大綱」に示されている自殺対策に資する教育の3つ(①命の大切さを実感できる教育 ②SOSの出し方に関する教育 ③心の健康の保持に係る教育)のうちの1つ
2025年に厚生労働省が出した「OD(オーバードーズ)するよりSD(相談)しよう」という政府動画をご存じですか。大炎上して、1週間で削除されたんですけども。
批判のコメントを読んでいてもっともだと思いましたね。
「相談して傷ついたから一人で乗り越えるためにODをしているのに、それをやめて相談しろと言われても…」とか
「相談したらODやめろって言うから相談できない」とか。
結局、子どもが安心して話せる場所がないんですよね。
「正直に言いなさい。正直に言えば怒らないから」と言ったのに、話してみたら怒ったり殴ったりする大人がいます。
それに、大切な人には「死にたい」なんて打ち明けにくいですよね。
母親に「死にたい」と言ったら、号泣してパニックに陥るでしょう。恋人や親友でも「どうして俺がいるのに死にたいなんて言うの?次に言ったら別れるよ」という人もいます。
本当の気持ちを話したら、大切な人を悲しませたり、大切な人とのつながりを失うかもしれないんです。子どもにとってみたら、相談は危険なんですよ。
まして、関係のない第三者に相談すれば、言いふらされる可能性もあります。
――そう聞くと、子どもが相談できないと感じるのも分かる気がします。
それでも相談しないわけにはいかないですよね。じゃあ、誰に相談するのかというと、しばらく雑談して「この人なら大丈夫だな」と思った人に勇気を出して話すんです。
外来で面接をしていると、子どもは最後の1分で一番大事な話をします。「これまでの30分は何だったんだ」と思うけど、それが大事だったんですよね。
大事なのは相談よりも雑談なんです。
――遠回りに思えても、子どもたちが「話を聞いてくれそうな大人がいる」と感じられることが抑止に役立つかもしれないということでしょうか?
なんなら雑談だけでも救える可能性があると思います。
コロナ禍でみなさん、ステイホームをしましたよね。あの時、外来にはリストカット、オーバードーズ(市販薬の過剰摂取、OD)、摂食障害の患者さんがどっと増えたんです。もともと緊張関係があった家族はステイホームで家の中がピリピリして、そのしわ寄せが子どもにきてしまったんですね。
学校で傷ついて命を絶つ子もいるけれども、学校があるおかげで生き延びている子たちもいたということです。
ただ、その子たちも学校でスクールカウンセラーや養護の先生のところに行ってたかというと、ほとんどは行ってないと思うんですよ。じゃあ、学校の何に救われてたのか。
授業が再開しても長い間、自殺は減りませんでした。学校が始まっても再開しなかったものがあったんです。
給食の時間におしゃべりをしたり、 休み時間に騒いだり、放課後に寄り道をしたり。そんな時間は戻ってこなかったんですね。
そういうすき間時間の雑談で子ども同士が救いあっているのかもしれないですし、信頼できる担任の先生とどうでもいい趣味の話をすることで癒されて死ぬのを延期してる子がいるのかもしれません。
最近ではカウンセラーなど学校内にも専門職が増えていますが、子どもの自殺や不登校は減っていません。一方で、教員の人手不足は深刻で、メンタルヘルス問題で休職する教員の数は毎年史上最大を更新しています。
つまり、不足しているのは子どもたちの相談相手ではなくて、雑談相手なんです。
そういう意味で、一見すると自殺対策の看板を掲げていない対策こそが子どもたちの命を救うんじゃないかと思うんですよね。
子どもの命よりもお金が優先される現実
――近年、ODの広まりも問題視されています。
この問題に関しては大人の責任が大きいと思っています。
2014年から、乱用リスクの高い市販薬については個数制限がおこなわれているにもかかわらず、若者の市販薬依存患者はものすごい勢いで増えています。
その背景にはドラッグストアの急増があります。
国は10年くらい前から医療費削減のため、セルフメディケーションを推進しています。2009年には登録販売者制度を開始し、薬剤師不在でも一部の医薬品を販売できるようにしました。なるべく病院に行かせないで市販薬で進めようとしているんです。
また、コロナ禍でニーズが拡大した、ある咳止め薬はアメリカで乱用されている事例がありながら、日本でも市販化されました。日本でも乱用されましたが、メーカーは売上好調として内容量を増やした新製品を出し、市販薬依存患者はさらに増えました。
僕は国に再三、個数制限を申し入れましたが、今も規制対象にはなっていません。
今となってはもう規制をしても遅いですし、子どもたちは薬が手に入らなければ、代わりにリストカットをするだけなので、規制は根本的な対策にはなりません。
ただ、販売を決断するにあたってちゃんと考えたのか、問題が浮上した際に対策をとろうとしたのかというと、していないんです。医薬品メーカーは儲けること、政府は医療費の削減を優先した。口では子どもの自殺を心配しているといいながら、本当は心配していないんです。
――子どもが市販薬を手に取りやすい環境になっている現実に誰も注目しようとしなかったんですね。
とうとう市販薬をコンビニで売る法案も国会で通ってしまいました。この分だと未来はもっとひどくなると思います。
今、乱用されている市販薬は医師が絶対に処方しないような薬です。
市販化の際に、カフェインや海外では規制されている成分などが加えられていて、中には法の網をくぐり抜けて違法物質を入れているものさえあります。単に病院でもらう処方薬を弱めたものではなく、普通の大人が思っている以上に危険な薬です。
現代の子どもたちはSNSに投稿されたキラキラした写真と自分の容姿を絶えず比較しています。自尊心が低くなっている可能性もあるでしょう。そういった子たちが化粧をする年齢になった時に、行く先はプチプラコスメが売られているドラッグストアです。そこで外見をきれいにするコスメと、ドロドロした内面を鎮めるための市販薬が手に入るんです。
今、若い女性の自殺は統計的にみても史上最大に深刻な状況です。そんな中、医師も処方しないような薬を子どもが簡単に買える環境をつくってしまっているんです。この現実を自殺対策に関心を持っている人たちがどこまでご存じなのか、大人はどう思っているのかということですよね。
子どもの命を守るために大人ができること
――子どもの命に関わる問題を後回しにしてきたのは大人の責任ですね。子どもを守るために大人がまず始められることはありますか?
まず心がけてほしいのは、子どものしていることはどんなに悪いと思えることでも、理由があるかもしれないと考えることです。頭ごなしに決めつけない、善悪でジャッジしないことが大事です。
それから、子どもは相談できないので、大人が相談しましょう。自殺報道でよく相談窓口の電話番号が出ますけど、子どもはかけないですよね。でも、大人は相談できると思うんです。「子どものことでこういうことがあって、どうしていいか分からない」と大人が相談する。
大人が相談すると、実は子どもの問題も良くなってくるんです。
大人が原因でリストカットやODをしているわけではないんだけど、大人が何とかしようと焦っていると、その緊張感が子どもを圧迫して、事態をこじらせている部分があるんだろうと思います。大人に余裕が生まれるだけでもちょっと良い方向に行くので、大人こそSOSを求めましょう。
【大人におすすめの相談先】精神保健福祉センター
心の問題に特化した保健所のようなところです。都道府県政令指定都市に少なくとも1か所は設置されています。病院ではないため薬は出ないものの、精神科医、臨床心理師、精神保健師など様々な専門職が本人や家族の相談に乗っています。自殺対策や未遂者ケアなどに取り組んでいるほか、思春期問題についての相談や勉強会もおこなっています。
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*先生のおすすめポイント
ODを繰り返すような子の場合には「思春期」と「依存症」の双方に詳しくないと支援が難しいのですが、精神保健福祉ンターはそのどちらにも対応しています。ご家族を支えるだけの力量はあると思います。

松本俊彦
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所薬物依存研究部部長
同センター病院薬物依存症センター センター長
1993年佐賀医科大学卒業。横浜市立大学医学部附属病院精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所司法精神医学研究部、同研究所自殺予防総合対策センターなどを経て、2015年より現職。近著に『誰がために医師はいる――クスリとヒトの現代論』(みすず書房,2021)、『世界一やさしい依存症入門 やめられないのは誰かのせい?』(河出書房新社,2021)
<松本俊彦先生の講演アーカイブのご案内>
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*視聴チケット:5本セット3,000円(申込は3/28、視聴は3/31まで)
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