2000年代以降、家庭の事情や学校不適応などで、問題を抱えていそうな子どもたちへの対応策として、「居場所づくり」というアプローチが広まってきました。新たな支援の形として、ブームとも言える広がり方をしている「居場所」政策に対し、早稲田大学教授で子どもや若者の居場所をテーマに研究している阿比留久美(あびる くみ)先生は「大切なことを見落としていないか」と警鐘を鳴らします。居場所を形だけのものにしないために、私たちが今、立ち止まって見つめ直すべきことは何なのか、阿比留先生と一緒に考えていきます。

SNSが加速させた、うまくやらなくてはというプレッシャー
これは感覚的な話にはなるんですけど、今、10代20代の子たちの中で、うまくやっていかないといけないっていうプレッシャーが強くなってきている気がします。
そして、それにはSNSの炎上文化が確実に影響していると思います。
一旦炎上してしまうと、それがデジタルタトゥーになって、その後の人生が回復不能になる。いろんなものを隠しておけない状況の中で生きてると思うんです。
可視化され過ぎて「うまくやらなきゃいけない」という思いが強まっていると思うので、うまくやらなくてもいい、失敗してもやり直しができるんだという感覚が持てるような、それこそアジール*1みたいな場所が必要なのかなと思っています。
*1 権力や法規範が及ばない聖域や避難所
――失敗してもやり直しができる場所、ですか。
目に見える場所だけじゃなくて、いろんなものが許される場があること、それを実感できることが大事だと思います。
具体的に文字にしてしまうと差し障りがあるけれども、ひと昔前までは喫煙や未成年飲酒のような、ちょっとルールを外れるような体験も実際には存在していたし、大人社会もある程度までは容認していた部分があると思いませんか?
例えば、文化祭の打ち上げでカラオケに行ってお酒を飲んだみたいな。ハレの日にちょっと羽目を外すようなことも、バレたら怒られたり退学・停学になったり、反省文を書かされたりするけれども、そのことで知らない人から叩かれたり、再起不能になったりすることはなかったと思うんです。
別に飲酒を推奨したいわけでも、喫煙を推奨したいわけでもないんだけども、多少ルールから外れることも社会の側に受け止める余地があって、間違えたらやり直すという経験ができていたわけです。
それが今は若気の至りのようなことも許されなくて、ルールを少しでも外れると叩かれてしまいます。
失敗が許されない状況下で追い込まれてしまって、オーバードーズ(市販薬の過剰摂取、OD)やリストカットを選んでしまう子もいるのかなと思っています。
――今の子は昔に比べて「悪いこと」をしないというか、いい子だと私も感じています。
世の中を渡っていく上で、もう少しいろんなオプションがあるよ、ということを子どもたちが知れたらいいのかもしれないですよね。
社会から許される経験や境界線を探る行動が難しい現代
是枝裕和監督の映画『万引き家族』って、ご覧になりましたか?
その中で、雑貨屋の店主役の柄本明さんが、お兄ちゃんが万引きしてた時には見逃してたけど、妹に万引きさせようとした時に「妹に万引きさせちゃいけねぇ」って言うシーンがあるんです。
そう言われて初めて、お兄ちゃんは今まで見逃されてたことに気づくみたいな。
見逃してもらってた感謝みたいなものって結構あるような気がしています。
そういう関係や場を今の子どもたちが持てていないということを、もっと考えないといけないと思います。
居場所って、個人個人の出会いという面では大きな効果があると思うんですけど、それよりももっと大きい概念での「社会」から許容されるという経験はすごく大事だと思います。
意味のないことやちょっと害のあることが許される経験、そういうことをやっていいと思える場をどう確保するのかという問題を、居場所づくりという形で狭めちゃいけないんじゃないかと思うんです。
居場所はもちろん必要で、否定するわけではありません。
でも、夜、公園にたむろしていたら通報されるんじゃなくて、「早く帰れよ」と言われるぐらいの関係や場を日常生活圏の中につくれたら、10代の子が自分で自分の居場所を見つけられると思うんですよね。
――子どもたちに「居場所を返す」ということを、当団体の講演*2でもおっしゃっていました。

*2 第26回Child Issue Seminar「キャラを使い分けるSNS時代の10代の居場所のあり方」
自分は10代の時に放っておいてほしいと思っていたのに、今の研究テーマは「(子どもを)放っておかない場」なので、我ながら矛盾していると、研究を始めた時から思っています。
放っておかれ過ぎることは問題ですけど、まったく放っておかれないのも自治がないわけですよね。自分たちで好きなようにやって居場所を見つけて確保する経験を、10代の子ができたらいいなと思います。
行政に若者の声を届けるみたいなことじゃなくて、友達同士で「この公園はうるさい人が近くにいるから、あっちの公園に行こう」と、なんとなく自分たちで居場所を見つけていくようなイメージです。コンビニの飲食スペースも1時間ぐらいまでならOKかなど、許されどころを探るとか。
大人が思う有意義な体験とは違う場所で、そんな力を培える経験が、もっといろんなところでできたらいいと思うんですよね。
それはつまり、社会に、子どもたちが自分で居場所を見つけて獲得していける余地があるということだと思います。
成長していく子どもたちのために大人がやるべきこと
以前、研究休暇でスコットランドに滞在した際にいいなと思ったのが、賞味期限切れの食品を家の前に置いておいて自由に取っていけるみたいなシステムをつくっている団体があったんです。フードバンクもたくさんあって、そちらでは賞味期限内のものをお渡しするんですけど、賞味期限が切れてしまったものをスーパーが提供してくれて、自己責任で持って行っていいようになっていたり。
今はコンビニでも賞味期限がきた商品はバイトしてる子も持って帰っちゃいけないですけど、賞味期限が切れたからダメっていうのは余白がないですよね。
スコットランドの例を真似しようと言いたいのではなく、余白をどう使うかの自由と裁量をいろんな人が持てるといいなと思います。
――余白を使うというのはどういうことでしょうか。もう少し詳しく聞かせてください。
例えば、家に居場所がなくて、居心地が悪そうな子がいたとします。
そういった子のために居場所を作ろうといった時に、公的にやろうとすればするほど、夜9時以降は閉館するから結局は帰りたくない家に帰らざるを得ないといったように、できないことが増えてしまいがちです。
でも、その子に友達がいて、友達の家で遊ぶ延長線上で、週に1日、2日は泊まってくみたいなことが、プライベートな関係の中でだったらギリギリできるわけです。
「友達の子を泊まらせることで自分の家の子どもの生活を乱している」と親が批判されるリスクもあるけれど、それを引き受けて小さな親切ができる人も少なからずいると思うんですね。そういった、ちょっとした親切がしやすくなるような余白が社会には必要だと思います。
――人それぞれの厚意を潰さずに、ちょっとした親切を許し合える社会だったら、子どもたちが自分で居場所を獲得していける可能性が広がるのかもしれませんね。
どんな境遇に置かれた子も生きていける世の中にしていきたいと思った時、私たち大人はまずどんなことを考えてみたらいいのでしょうか?
子どものリスクをどの程度まで許容できるか、リスクを許容するために決まりをつくるのではなくて、どういうルールの緩め方があるかをぜひ考えてみてほしいです。
大人は範囲を明確化させることが仕事だと思ってしまいがちですが、ルールを作って子どもができないことを決めるよりも、許容度を広げるという視点でルールを緩めて、子どもができることを増やす、そんなことを考えていただけたら嬉しいなと思います。
親であれば、門限9時と一律に決めるのではなく、連絡をして必ず帰ってきてほしいとか、外泊する時は必ずどこにいるか連絡するとか、そういった形でルールを緩めれば余白が生まれるんじゃないかと思うんです。
今は親の責任がすごく問われるから親も管理しちゃうんだと思うんですけど、今日放課後どこで過ごすか、どこなら遊んでて許されるかみたいな小さな選択の積み重ねが、自立に向けた練習になっていくと思います。
行政では難しいかもしれないですけど、例えば、図書館の中のある部屋は飲食や会話をできるようにするとか、変えられない決まりではなく、子どもが探れるような形はある気がします。子どもの裁量を広げて、子どもたちが主導権を持てるようにしていけるといいんじゃないかと思います。
大人が子どもの言う通りにするというのではなく、大人の想定に沿う子どもの意見だけを取り入れるのでもなく、大人側の事情や思いも伝えながら、子どもと話し合える関係性を築いていけるといいですよね。

阿比留 久美(あびる くみ)
早稲田大学文学学術院教授
専門は教育学(社会教育、青年期教育論)で、子どもや若者の居場所をテーマとした研究をしている。著書に『子どものための居場所論』(かもがわ出版)、『孤独と居場所の社会学―なんでもない“わたし”で生きるには』(大和書房)など。社会福祉士、精神保健福祉士。
<阿比留久美先生の講演アーカイブのご案内>
過去のChild Issue Seminarより、阿比留先生にご登壇いただいた回を含む、全5回のアーカイブ視聴をセットで販売しております。いずれも「思春期」を理解するための貴重な内容です。ぜひこちらも合わせてご視聴ください。
*視聴チケット:5本セット3,000円(申込は3/28、視聴は3/31まで)
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