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2019.03.07
代表・森山

多発する児童虐待事件…「親・保護者=善人」の思い込みはリスクだ(後編)

ーリスクの大きさに対して支援機関はどこも受け皿不足

一方で目黒区の船戸結愛ちゃんと、千葉県野田市の栗原心愛ちゃんの事件でも明るみになったように、虐待の発見や保護などを担う児童相談所をはじめ、そういったリスク対策を十分に行うには子どもの教育や支援に携わる大人の余裕があまりにもありません。
 
かつて家族の形も大きく、学校にもゆとりがあり、地域や親せきづきあいもあった時とは違って、家族の単位も小さくなり、学校にもゆとりが減り、地域・親せきづきあいもほとんどなくなった今、その負担は、少ない大人にのしかかっており、それが崩壊すると、NPOや行政などの子どもの支援機関にすべて寄せられている状況です。
 
東京の児童相談所は1人のケースワーカーが80~100件を超えるときもあります。
 
企業などで働いている方にとって、たとえばコンサルティングをしているケースが80~100件もあると、ひとつひとつ丁寧にできないことがよくわかるかと思います。
 
ましてや、命にかかわる案件もありえます。継続的に家庭訪問をしたり、小さなリスクや変化も汲み取るにはあまりにも多い案件数です。
 
私たちのもとにも子どもから年間200件を超える相談が寄せられています。一件一件リスク対策をするには、対応する職員の選抜、研修、マネジメント、会議などを丁寧にしなくてはいけません。
 
しかし、そのための予算や、人は十分になく、時には来たものを丁寧に対応するために、相談窓口を閉じざるを得ない時もあります。
 
そのため、私たち以外にもたくさんある子どもの支援機関に適切につながるために、子どもたちが自分に最も合った支援機関を検索し、サイト内で相談までできる「Mex(ミークス)」というプラットフォームを作りました。

10代向け支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」

10代向け支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」のトップ画面

子どもたちのアクセス数や相談数は伸び続けており、初年度(2016年度)は東京版として開設し1年間で約5万人、2017年度は全国版にリニューアルして1年間で約14万人、2018年度は1月末時点ですでに20万人と毎年利用者数が大きく増え続けています。
 
受け皿となる支援機関がパンクしないために、掲載している支援機関を増やしたり、いろんな工夫をしていますが、時には子どもへの周知を制限しなくてはいけないのではという葛藤にかられることすらあります。
 
少子高齢化時代にも関わらず、子どもの虐待の発見数は毎年増えており、いじめや、不登校、子どもの自殺率も増加し続けています。
 
そして少子高齢化の中で、社会保障の約8割は年金、医療、介護でなくなり、残った2割で、生活保護や子育て世帯の支援、若者支援などを分かち合っている状況です。
 
子どもの支援団体の多くは、行政からの補助が得られず、虐待や貧困が問題な中で親や子どもから費用をもらうことはできないので、ボランティアと寄付で成り立っています。年間200~300万円で運営しているところも多く、1人分の人件費にもならないことがわかります。
 
そんな団体が、家庭にも学校にも地域にも居場所がない子どもたちからの相談をすべて受け止めています。私たちも10人ほどの職員で運営していますが、それでは全く足りない状況で活動しています。
 
その解決を先送りすればするほど、問題は複雑化し、解決の糸口はより見えなくなってしまうほど、重くなっていきます。
 
誰かひとりが取り組めば解決される状況でなくなってきていることを、結愛ちゃんと、心愛ちゃんが私たちに教えてくれています。二人が命を懸けて教えてくれたことを、社会全体として受け止めなくてはいけません。
 

ー親だけを責めずみんなで変えていく

そして、虐待などが起こる前のケアも大事です。
 
親や保護者が虐待をしないための地域づくり、子育て支援の対策だけでなく、ひとり親家庭でも子どもに十分な愛情や教育ができる社会保障、長時間労働を前提にしない働き方改革など、様々な対策が必要です。
 
私の好きな言葉に、詩人・劇作家オスカー・ワイルドの「すべての聖人に過去があるように、すべての罪人にも未来がある」というものがあります。ここで言いたいのは、親や保護者を悪者だと思えということでは決してありません。
 
結愛ちゃんと心愛ちゃんだけでなく、ここ10年間で児童虐待で命をなくした子どもは1000人にものぼりますが、その約半数は、無理心中で親も一緒に命をなくしています。親自身も苦しんでおり、親にも手を差し伸べなくてはいけません。
 
ただし、親も苦しんでいるからといって、「親=善人=虐待をしない」という公式は成り立ちません。
 
私たちがやるべきことは、「虐待」「暴力」が起きるメカニズムを正しく理解し、それらがいかに日常に潜んでいるのかを理解することで、リスク対策をしっかりしていくことが大切なのです。
 
2月26日から、子ども向けにこちらの動画も公開しました。
 
虐待だけでなく、不適切養育(マルトリートメント)と呼ばれるもの、すなわち、子どもが我慢しなくてもよい事例を集めたものになります。
 
少しでも多くの子どもたちが自分を責めたりひとりで我慢しなくてもいいようにという願いを込めて作りましたが、子どもと接する大人もぜひ知っておいてほしいです。
 

 

ー子どもに関わるすべての大人に問われていること

虐待は最新の数字で年間13万件となっていて、27年間発見・対応件数は増加し続けています。

児童相談所の虐待対応件数の推移

児童相談所の虐待対応件数の推移

しかし、子ども本人からの相談事例はその中のたった1%となっていて、どれくらいの虐待が見えないものとして隠れているかわかりません。
 
子どもの近くにいるはずの、学校からの通報は7%、近隣・知人からの通報も13%、かつて地域の困りごとを把握する主な担い手であった児童委員や保健所は0%と、子どもの周囲の人からの通報はきわめて少ない時代になったのです。
 
一方で警察からの通報は49%となっています。つまりは、警察沙汰になるまで、なかなか発見されていないのが現状というのが、私の実感です。

児童相談所での虐待相談の経路別件数の推移

児童相談所での虐待相談の経路別件数の推移

かつてよりも、家庭環境が閉鎖的になり、私たちが外から見ているものとは全く違う状況が家庭の中で起きているかもしれません。
 
子どもに携わるあらゆる職業・立場の人は、「児童虐待」というのは決して珍しいことではなく、どの子どもでも被害者になっている可能性があるものとして考えなければいけない時になっているのです。
 
また、これだけ周りの人が通報せず、警察沙汰になるまで子どもたちは放置され続けている現状なので、すこしでも気づいた人が立ち上がらなければ、子どもたちは救われないかもしれない、そんな時代です。
 
心愛ちゃんの事件で、同じマンションの人が「自分が気づけば救えたかもしれない」と嘆いている様子もニュースになっていましたが、事件が起きてからでなく、少しでも困ったときに自分にできる何かをしなくてはいけない、そんな時代なのです。
 
ちなみに児童虐待の通報は、189(いちはやく)が受けており、匿名でも相談でき、法律上、虐待の確証がなくても通報することになっています。自分ひとりが通報したところで……と思わず、必ず通報してください。
 
みんなが行動すれば、まだ問題が大きくないうちに解決できるかもしれません。また何人かが通報すれば、当然、児童相談所からこのケースは緊急度が高いと判断されます。ぜひ、何かに気づいたときには、一歩踏み出していただきたいです。
 
また、大人の言葉以上に子どもたちの言葉に耳を傾け、変化に気づき、子どもたちに一人でも味方が多くなり、たとえ困っても「助けて」といえる、そんな社会にしていけたらうれしいです。
 
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こちらの記事は、代表・森山が「現代ビジネス」で連載している記事を、許可を得て転載しています。本来は、有料会員向けの記事となりますので、他メディアへの引用・転載はご遠慮ください。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60086