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虐待が子どもに及ぼす影響とは~「健全な成長」を奪われるハンディキャップ

更新日:2021.3.19

日本で虐待ってどれくらいあるの?」で見たように、一口に虐待と言っても、身体的虐待、精神的虐待、ネグレクト(育児放棄)、性的虐待と様々です。報道で大きく取り扱われるのはどうしても死に至る暴行などがあったものになりますので、体にできた傷などの目で見て分かる被害に世間の注目は集まりがちですが、虐待的な行為による本当の被害とは、身体的な外傷にはとどまりません。

大人でも、日々DV(家庭内暴力)を受けていれば精神の安定を保つのは困難です。上司などに日々怒鳴られ、精神を病む若手社員は多くの会社にいますし、性犯罪に遭った大人の女性がトラウマで外出できなくなるといったケースは全く珍しくありません。そうした被害を、逃げ場がなくまだ人格形成がされていない子どもが受けたらどうでしょう。大人以上に重大な影響を受け、その後の人生に大きな枷をはめられることになりかねません。

虐待を受けた子どもへの診療・精神的ケアを通じて、虐待がその子にどんな影響を及ぼすのか、徐々に知見は得られてきています。公益財団法人、日本精神衛生会の「心と社会」(No.99)によると、下記のようにまとめられています。

虐待による身体面への影響

身体的虐待と低身長

1)身体面
全身状態では、低身長、栄養発育障害が珍しくありません。十分な食べ物を与えられていないことが1つの理由ですが、愛情のない環境で育った場合、成長ホルモンの分泌が障害されることがあり、そのための低身長が見られることもあります。 外傷では、新しい傷と古い傷跡が混在して認められるのが特徴です。また、子ども虐待で認められる外傷には、多発性で反復するという特徴もあります。複数の火傷痕や骨折、火傷・骨折・薬物誤飲(タバコを含む)などの外傷・事故を繰り返すというものです。

異物飲食 身体の震え


注意が必要なのは乳児の骨折で、これは、それだけで虐待の可能性を考えます。乳児の骨は柔軟であり、よほどの不自然な外力を加えない限り通常骨折するものではないからです。薬物からみでは、親が薬やさまざまな物質(体温計の水銀、糞尿など)を子どもに飲ませたり注射したりするなどして、子どもを病気にするものがあります。説明のつかない身体症状の持続がある場合、疑わなければいけません。

公益財団法人日本精神衛生会「心と社会」(No.99)

虐待による精神・行動面への影響

骨折 薬物摂取 やけど

2)精神・行動面
年少児では、過食・盗み食い・異食などの食行動の異常が高頻度に認められます。また、身体的虐待が続いている場合には、痛みに対してほとんど反応しないということもよく認められます。多動、乱暴、落ち着きがない、という行動もよく見られるものです。対人関係では、きわめて警戒的で内にこもるか、一見人なつっこいが表層的な対人交流しかもてないかの2つのタイプが認められます。年長児では、集団内での問題行動や反抗的、攻撃的な行動が特徴です。周囲から見ると非行としか見られない行動の背景に虐待が隠れていることは少なくありません。具体的には、離席、教室から抜け出す、集団行動をとらない、怠学、不登校、暴力的、友人とのトラブル・ケンカが多い、指示に従わない、反抗的、虚言傾向、器物破壊、学校で飼育している動植物を殺す(生物への残酷な仕打ち)、盗み、徘徊、家出、喫煙、飲酒などがあります。特に、単独で非行を繰り返している子どもがいた場合には、最低でもネグレクトがある可能性を考えなければいけません。また、性的虐待を受けている場合、性的逸脱行為、性非行なども生じやすくなります。

虐待による精神・行動面への影響

虐待を受けた子どもは、虐待を受けているその時点でさまざまな精神・行動面の問題を示すほかに、適切に対応されなければ、青年期以降、完成された精神障害に発展していくことも少なくありません。青年期は、拒食症や過食症などの摂食障害、不安障害、解離性障害(ヒステリー)、抑うつ状態などが見られます。成人になりますと、アルコールや覚醒剤などの薬物嗜癖、人格障害、などに発展することも珍しくありません。

公益財団法人日本精神衛生会「心と社会」(No.99)

こうした影響の程度は、どういった被害を受けたか、周囲に助けてくれる存在はいたか、虐待発覚後どんな環境で過ごしてきたかなどで大きく変わります。また、虐待を受けた子どもがすべて問題行動を起こすわけでもありません。虐待被害者の心のありようは正確には本人しか分かりませんが、虐待を受けずに育った人でも、自分が当たり前のように受け取ってきた愛情や教育、金銭的支援、交友関係、そうしたものを一切得られなかったとしたら、いかに自分の人生が狂うか、想像することはできるはずです。

近年、虐待の被害者が「虐待サバイバー」といった形で、実体験を語るような取り組みも出てきています。思い出したくもないようなトラウマを語ることはご本人にとって苦しい行動です。それでも、被害者同士で体験を共有することで希望を得たり、社会に理解を促そうとしたりして、言葉にされています。

「結婚して、子どもが生まれたとして、その子をちゃんと愛せるのか自信がない」。そう話す虐待被害者は少なくありません。自分が虐待の加害者にならないかという不安を抱える人もいます。実際にそうした世代間連鎖の報告はされており、虐待防止、そして被害者の心のケアの必要性を強く感じさせる事例です。虐待の防止は、今の子どもを守るだけでなく、未来に起きるかもしれない虐待や犯罪行為を減らすことにもなるのです。

虐待に限りませんが、犯罪などの被害者(やその家族)が精神的な後遺症に苦しんでいるということは徐々に認知されてきました。ただ身体に障害がある場合などに比べて、まだまだ目に見えない後遺症に対しての社会の支援や理解は十分とは言えません。また被害者が子どものうちは差し出される支援も、体が成長し年を重ねていくほどに得にくくなるということもあります。
幼い子どもが親や環境を選べない以上、虐待を受けた人も受けなかった人も、生まれた環境がたまたまそうだったというだけです。虐待被害者がどんな状態になり、どんな支援を求めているのか。またはどんな支援がなければならないのか。耳を澄ませ、心を配り、方策を考え続ける必要があります。

白書−日本の子どもたちの今

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