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虐待って誰が発見している?~児童相談所、市区町村、警察の役割の違い

更新日:2021.9.30

虐待は、それが起きる場所や加害者との関係性、虐待の中身と犯罪性、被害者の状況(身体・精神的な健康状態など)といった要素が複雑に絡み合う問題です。そのため、その発見から支援までの道筋も多様で複雑になります。

ここではまず「問題の発見」「対応方針の策定」「支援・措置」の3段階のうち、最初の「問題の発見」についての現状を見ていきます。その後の「対応方針の策定」「支援・措置」の2ステップは次章以降で紹介していきます。

虐待の発見・対応を担う「児童相談所」ってどんなところ?

虐待が疑われるケースを発見した場合、主に児童相談所または自治体の窓口に連絡することになります。厚生労働省は虐待が疑われるケース専用の相談窓口として、専用ダイヤル「189(いちはやく)」を設置しています。189がつながる先は地域の児童相談所です。このことからも分かる通り、特に虐待に関しては情報の集まる窓口として、児童相談所は重要な役割が期待されています。

児童虐待専用ダイヤル 189
*出典1

そもそも児童相談所とは、子どもの健やかな成長のために、保護者や子ども本人などからの相談を受け、サポートする機関です。2021年4月1日現在、全国に225か所設置されています。あまり知られていませんが、児童相談所は虐待だけでなく、子どもの非行や障害など幅広い相談に応じている機関なのです。虐待にまつわる相談は、以下の児童相談所が受け付ける相談内容のうち、養護相談の一部になっています。名前の通り、「児童」にまつわる様々な「相談」ができる「所(機関)」なのです。

児童相談所が受け付ける相談の種類

相談の種類相談の主な内容
養護相談父又は母等保護者の家出、失踪、死亡、離婚、入院、稼働及び服役等による養育困難児、棄児、迷子、虐待を受けた子ども、親権を喪失した親の子、 後見人を持たぬ児童等環境的問題を有する子ども、養子縁組に関する相談
保健相談未熟児、虚弱児、内部機能障害、小児喘息、その他の疾患(精神疾患を含む)等を有する子どもに関する相談
障害相談肢体不自由、視聴覚障害、言語発達障害、重症心身障害、知的障害、自閉症等を有する、もしくは同様の症状を有する子どもの相談
非行相談虚言癖、浪費癖、家出、浮浪、乱暴、性的逸脱等のぐ犯行為、飲酒、喫煙等の問題行動や、触法行為がある子どもについての相談
育成相談友達と遊べない、落ち着きがない、内気、緘黙、不活発、家庭内暴力、生活習慣の著しい逸脱等性格もしくは行動上の問題、不登校相談、進学適性、職業適性、学業不振等の適正相談、家庭内における育児相談
その他の相談上記以外の相談
*出典2

児童相談所における相談の種類別対応件数を確認すると、養護相談の一部に含まれる虐待相談は児童相談所が対応している相談全体の約36%程度であり、約65%は虐待に限らない子どもにまつわるあらゆる相談となっています。

児童相談所における相談の種類別対応件数(2019年度時点)
*出典3

一方で、虐待相談対応件数は、「日本で虐待ってどれくらいあるの?」でも触れたように、以下のように推移しており、児童相談所における虐待相談の重要性は年々増してきている状況でもあります。

児童相談所での児童虐待相談対応件数
*出典4

児童相談所に電話したらどうなるの?匿名で相談できる?

児童相談所が運営する虐待が疑われるケースの専用ダイヤル「189(いちはやく)」に電話すると、虐待を受けているかもしれない子ども本人や、虐待をしているかもしれない家族であれば児童相談所の職員の質問に沿って知っていることや思い、困っていることなどを話せば、問題の解決に向け一緒に考えてもらったり、アドバイスを受けたりできます。また近隣知人といった周りの人からの虐待の通告の場合には、知っている情報を伝えるのみで、匿名で連絡することもできます。

虐待に関する相談や通告を受けた児童相談所は、家庭を訪問するなどして子どもの状態を把握、児童福祉司などの児童相談所内の多職種による協議のうえで対処方針を決定します。ただ、一口に相談対応や安全確認と言っても簡単ではありません。児童相談所の職員が家を訪れても、保護者が拒否するなどの理由で子どもと面会できないケースは少なくありません。そうした場合、児童相談所は家庭内などへの立ち入り調査を実施できることになっています。必要に応じて警察に援助を要請、裁判所に強制的な立ち入りの許可を得るなどの対応が可能とされており、少なくとも制度上は強制力を持って対応することができる仕組みになっています。

子ども虐待対応アセスメントフローチャート
*出典5

児童相談所の職員が使う記入表や、一時保護を検討するための判断基準表などは厚生労働省「子ども虐待対応の手引き」にあります。

児童相談所と市区町村との役割の違いは?

市区町村での児童虐待相談対応件数の推移
*出典6

日本で虐待ってどれくらいあるの?」でも触れたように、児童相談所とは別に市区町村も虐待の通告の窓口となっています。

2004年の児童福祉法の改正により、子どもと家庭に関する第一義的な相談・通告の窓口は、身近な市区町村が担うことになりました。このため、児童相談所は一時保護や施設入所が必要な緊急性があるケースや市区町村の対応では困難なケースを主に対応すること、市区町村の児童家庭相談や要保護児童対策地域協議会で対応しているケースへの助言など 、より専門的な立場からの役割が求められています。

児童相談所と市区町村の役割分担
*出典7

児童相談所は児童虐待相談対応に関して、保護者の意に反しても一時保護を行うことができる権限や、虐待のおそれがある家庭への立ち入り調査、保護者の同意がない場合に家庭裁判所の承認のもとで施設に入所する措置や里親に委託する措置、家庭裁判所への親権停止の請求など、法に定める権限を有しています。実際に権限を行使する際には、必要に応じて市区町村に協力を求めることもありますが、一般的にそういった権限の行使が必要な比較的困難な事案を児童相談所が対応する形になります。一方の市区町村は子どもや家庭の身近な立場として、在宅での継続的な支援が必要なケースを担当していくといった役割の違いがあります。

そのため、以下の図のように、主に市区町村の児童福祉や母子保健を主管する課に虐待対応担当窓口を設置しています。

市区町村における虐待対応担当窓口の設置状況
*出典8

虐待は誰がどのように通告・相談しているの?

誰が、どんな虐待をしている?」の項でも触れたとおり、認知されている虐待のほとんどは家族、特に実父母によるものですが、その場合はいかに家族以外の人が子どもの様子などから虐待を見つけるかが重要になります。児童虐待防止法は虐待を受けていると思われる子どもを発見した場合は、児童相談所または市区町村への通告を国民全体に対して義務づけています。虐待は密室化しやすく、問題を発見するには子どもに関わるすべての人がその役目を果たす必要があります。

以下は、児童相談所と市区町村に寄せられる児童虐待相談の経路別の内訳になっています。

児童虐待対応の経路別件数の割合(児童相談所・市区町村別)
*出典9

警察からの通告が多い背景には、「誰が、どんな虐待をしている?」の項でも触れたとおり、近年は子どもがいる前での夫婦間のDV(面前DV)が虐待に含まれるようになったことで、児童相談所への通告は、警察からの割合が大きくなっています。また虐待相談ダイヤル189(いちはやく)の周知などで、近隣知人や家族親戚からの通告は児童相談所に寄せられる傾向にあります。

一方で、市区町村には学校や、保育所、保健センターからの相談が多いことが見受けられます。子どもと家庭に関する第一義的な相談・通告の窓口として、虐待の疑い、不安がある際に、各関係機関からまずは市区町村に相談が寄せられている結果となります。また、児童相談所からの相談が多いのは、案件によって児童相談所と役割分担をしながら対応を行っている中で生じているものになります。

どちらの窓口にも共通しているのは、子ども本人からの相談は極めて少ないという点です。また、地域の子どもを見守り、子育ての不安や妊娠中の心配ごとなどの相談・支援を行うと位置づけられている児童委員(民生委員が兼任する役割)からの相談が少ないことも見受けられます。虐待の主な発見・相談者の内訳からも、地域社会の変容と、その中で誰が主な役割を担っているかが見えてきます。

児童相談所と警察との役割の違いは?

子どもが亡くなるような重大な事案があると、必ずと言っていいほど「なぜもっと強く児童相談所や警察は介入できなかったのか」といった批判が上がりますが、そもそも虐待事案における児童相談所と警察の役割の違いについて知る機会はあまり多くありません。

まず抑えるべき点は、虐待に限らない、そもそも警察と児童相談所の役割の違いについてです。警察の主な役割は、犯罪行為の検挙や抑止にあります。虐待は傷害(致死)罪や暴行罪、監護者性交等罪、児童福祉法違反などに問われる可能性があり、警察はまずもってこうした疑いのある加害行為の摘発、場合によっては加害者の逮捕に努めます。その中で被害者の安全確保に努めますが、あくまで主眼は犯罪の検挙及び取り締まりにあります。

対する児童相談所は、子どもに関する家庭の問題を解決し、子どもの権利を保護することが目的です。主眼は加害者の摘発ではなく、あくまで被害者である子どもの保護や、子どもを含めた家族の福祉的な支援にあります。

警察と児童相談所の役割の違い

警察児童相談所
役割・目的犯罪行為の検挙や抑止
<傷害(致死)罪や暴行罪、監護者性交等罪、児童福祉法違反等の摘発・逮捕>
子どもに関する家庭の問題を解決し、子どもの権利を保護すること
主眼加害者や犯罪の検挙・取り締まり被害者である子どもの保護や子どもを含めた家族の支援
*警察法や厚生労働省の定義を元に3keysが作成

次に、虐待事案における児童相談所と警察の役割の違いについて整理します。「児童相談所に電話したらどうなるの?匿名で相談できる?」でも出た、以下の子ども虐待対応アセスメントフローチャートを用いて説明します。近隣知人などから児童相談所に通告があり、虐待の疑いはあるものの家庭内の詳細が分からないという場合があります。こうした際は、児童相談所は家庭を訪問したり保護者に出頭要求したりできますが、保護者がこれに応じず調査を拒否することがあります。こうした際、児童相談所は警察と援助要請し、場合によっては鍵を壊すなどの強制力を持って立ち入り調査をすることができる仕組みになっています。

*出典5

さらに、警察への情報共有の基準をより明確にするために、2018年に厚生労働省より、以下のように児童相談所及び市区町村から警察に情報提供をする基準について、通知を行いました。ただし、現状はあくまで通知となっており、採用するかどうかは、各児童相談所や市区町村に委ねられている現状です。

児童相談所及び市区町村から警察に情報提供する基準

①  虐待による外傷、ネグレクト、または性的虐待があるとされる事案
②  通告受理後、子どもと面会ができず、48時間以内に児童相談所や関係機関にて安全確認ができない事案
③  ①の虐待に起因した一時保護や、施設入所等の措置をしている事案であって、当該措置を解除し家庭復帰するものに関する事案

厚生労働省「児童虐待への対応における警察との連携の強化について」の通知を元に作成

児童相談所には虐待相談だけでなく、養護相談や子どもの非行相談など、保護者や家族からの子育て相談も寄せられます。保護者や家族からの相談に応じていく中で、虐待が発覚するケースもあります。警察との連携や共有の程度が変わっていくと、保護者や家族から児童相談所に頼るハードルは今以上に高くなってしまう可能性があります。現在、虐待相談対応件数のうち、家族・親戚・近隣知人・子ども本人からの相談があわせて22%となっていますが、警察への共有が増えた場合、これらの相談は今まで以上にハードルが高くなる可能性があります。警察と児童相談所の役割の違いを理解することは、虐待事案において大事な部分になります。

一方で、暴行が確認されたり、面会拒否による警察の立ち合い同行の必要があるようなケースでなくても、児童相談所が把握したすべての案件について警察に情報を共有するいわゆる「全件共有」に踏み切る自治体が増えています。警察の強制力をどう使うかについては、まだ議論の余地がありそうです。

本記事は川松亮氏(明星大学人文学部福祉実践学科常勤教授)に監修いただきました。

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