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SNSがきっかけの子どもの性被害が増加~身近なサービスから忍び寄る危険

更新日:2023.7.13

本記事は2023年2月に公開したものです。2023年7月13日に性犯罪規定を見直す改正刑法が施行されました。これに伴い、本記事記載の強制性交等罪は準強制性交等罪と統合され「不同意性交等罪」に、強制わいせつ罪は準強制わいせつ罪と統合され「不同意わいせつ罪」として改正されました。

増加傾向にあるSNSを起因とする性犯罪

近年、子ども(18歳未満)が巻き込まれる性被害の特徴として、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)がきっかけとなるものが増えていることがあげられます。下のグラフは、SNSを起因とする事犯の被害児童数の推移です。これは、警察が認知した数に限られますが、2019年は2082人、12年の1076人から7年ほどで倍増しています。新型コロナがあった20年、21年は少し減ってはいるものの、近年では高水準のままです。

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児童ポルノ:写真、電磁的記録媒体等で、児童の姿態を視覚により認識できる方法により描写したもの。それを提供・所持・製造などすること
児童買春:お金などの対価を渡し、または渡す約束をして、児童に対し性交や性交類似行為をすること
青少年保護育成条例違反(みだらな性行為等):心身の未成熟に乗じた不当な手段により性交又は性交類似行為をおこなうこと。または、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は類似行為をおこなうこと
児童福祉法違反(淫行させる行為):児童に対し事実上の支配力を及ぼし、他者との性交や性交類似行為を強いること
重要犯罪等:略取誘拐、強制性交等、強制わいせつ、強盗、殺人が含まれる

罪種別に見ると、特に増加しているのが「児童ポルノ」です。2012年に242人だった被害児童数は、21年には657人、およそ2.7倍になっています。児童ポルノの被害者は、性的犯罪の被害を受けるだけでなく、その姿が記録され、形として残されてしまいます。一旦インターネット上などに流出すると世界中に拡散され、完全に消去することは難しくなってしまうのです。

日本では、1999年に「児童買春・児童ポルノ等禁止法」が成立、2004年と14年に改正されました。また、国連で採択された「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する選択議定書」を2005年に批准、さらに、児童買春や児童ポルノ製造の撲滅に向けて取り組むべき施策を「子供の性被害防止プラン」にまとめるなど、国際的な流れにも合わせて基本的に規制強化しています。規制が強化されたにも関わらず被害児童が増えた背景には、単純所持が禁止されたこと、インターネットやSNSの普及によって加害者と被害者のやり取りの証拠が残っているケースが多いことなどにより、検挙数が増えたためといわれています。

また、全体に占める割合は少ないですが、SNSをきっかけとして重要犯罪に巻き込まれる子どもの数も年々増えています。2012年と21年を比較すると、強制性交等は14人から34人に、強制わいせつは6人から17人に、性的な犯罪には限らないものの略取誘拐も2人から86人に増えており、看過できない状況となっています。

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では、こうした被害に遭った子どもの年代はどうでしょうか。
下のグラフを見ると、少子化が年々進んでいるにも関わらず、被害児童数はどの年代でも増加傾向にあり、ここ数年は小・中・高校生ともに高止まりしています。小学生の割合は2012年は全体の1.0%程度でしたが、21年には4.6%にまで増加。被害が低年齢層にも広がってきていることが分かります。

出典3
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※「その他」には未就学、学生(専門学校、専修学校在籍)、有職・無職少年が含まれる

2021年にSNSを起因として子どもが被害者となった事犯のうち、子どものSNSへのアクセス手段は、およそ95%がスマートフォンでした。近年はスマートフォンだけでなく、タブレットや通信のできるゲーム機器が中高生はもちろん小学生にまで普及しています。すべての事案がそうとはいえませんが、誰でも簡単に写真などの記録ができるようになったこと、子どもも個人の通信手段を持つようになったことで、犯罪に巻き込まれやすくなっていることは確かだといえそうです。

半数以上の被害児童がTwitterやInstagramをきっかけに

以前は、「出会い系サイト」を介した子どもの性被害が問題になっていました。出会い系サイトとは、インターネット異性紹介業者が運営する出会いを仲介するウェブサイトのことです。悪質な業者が不当に高額な料金を請求したり、子どもが犯罪に巻き込まれたりする事件が増えたため、2008年に「出会い系サイト規制法」が改正され、事業者による届け出や、利用者が18歳以上であるという年齢確認、書き込みの確認が強化されました。しかし、それによって子どもの性被害が減ったわけではありません。スマートフォンが普及すると、出会い系サイトに代わり、SNSを使った被害が急増したのです。多くのSNSの表向きの目的は「異性紹介」ではないため、「出会い系サイト規制法」が機能していないという現状があります。

出典4
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SNSとひとことでいっても、機能や特徴の異なる多種多様なものがありますが、中でも近年、被害児童数の多いサービスがTwitterとInstagramです。これらのSNSは利用者数が多いということもありますが、2021年には、被害児童の半数以上がこの2つのサービスを通して被害に遭っています。

出典5
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TwitterやInstagramをはじめ多くのSNSは、13歳未満は利用できないよう規制されています。しかし現実には、年齢確認や本人確認も厳格ではないため、13歳未満の子どもでも年齢を偽って登録・利用することも可能です。また加害者にとっても、顔も名前も出さず(時には年齢や性別を偽って)子どもに近づくことができる便利なものになってしまっており、実質、誰もが性犯罪の加害者にも被害者にもなり得る場所であるといっても過言ではありません。

特定のSNSを利用した犯罪が増えると、そのサービスの運営が終了することもありますが、消えてはまた新しいものが生まれている状況です。子どもを狙った大人による犯罪が多発したことなどから、被害児童数が2015年に2位の「ぎゃるる」は20年に、19年に2位の「ひま部」は同19年に、いずれもサービスを終了しています。

インターネットには、アダルトサイトや出会い系サイトといった「有害サイト」の他にも、使い方によっては性被害などのトラブルに巻き込まれる可能性のあるサイトがあります。不特定多数の人と繋がることのできる多くのSNSは、そうした「危険性のあるサイト(サービス)」だといえるでしょう。

被害の防止が難しい現状

ここまで見てきたデータはあくまでも警察によって認知された数であり、被害全体の氷山の一角に過ぎないということは、想像に難くありません。では、犯罪として表面化しない被害も多くある中で、子どもたちがSNSを介して被害に遭わないために、大人ができることはないのでしょうか。

その対策のひとつによくあげられるのが「フィルタリング」です。事前に決めた条件に基づいて、子どもにとって有害なウェブサイトへのアクセス・アプリの利用・利用時間・課金などの制限や、閲覧履歴の確認をおこなうことができるもので、2018年には「青少年インターネット環境整備法」の改正案が施行され、新規契約時や機種・名義変更時、携帯電話販売店には青少年確認やフィルタリングの説明・有効化が義務づけられています。保護者はフィルタリングを活用することによって、SNSなど危険性のあるサイトやアプリについては、子どもの成長や知識に合わせて少しずつ利用を許可していくといった工夫ができるでしょう。

とはいえ、SNSは今や多くの人にとって、欠かすことのできないコミュニケーションツールとなっています。総務省の通信利用動向調査によれば、2021年に何らかのSNSを利用している人は、6~12歳では34.1%、13~19歳では83.5%でした。15年と比較すると、若い世代に限らず、すべての世代で利用率が高くなっています。

出典6
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フィルタリングは特定のサイトの閲覧やアプリの使用を禁止することはできますが、ひとつのSNS内の部分的な機能制限はできません。フィルタリング機能を使ってSNSの被害を防ぐには、SNS自体の使用を禁止するほかないのです。性犯罪に巻き込まれるきっかけとなる場所が、出会い系サイトから誰もが利用するSNSへと移った今、子どもたちを守ることはより難しくなっているといえるでしょう。

最近では、学校や自治体を通じて、子どもや保護者に向けた「ネットリテラシー教育」がおこなわれるようになってきています。ネットリテラシー教育とは、SNSを含むインターネットを正しく使い、トラブルに巻き込まれないようにするためのものです。子どもが被害に遭うリスクを少しでも減らすためには、子ども自身や保護者にリスクの存在を認識してもらうための取り組みは続けていかなければなりません。しかし、保護者の目の届く範囲には限界があり、また、虐待・貧困・ヤングケアラー・核家族化など、様々な理由で大人の保護や見守りの目から抜け落ちている子どももいます。パソコンやスマートフォンが生活必需品として広く利用され、次々と新しい情報通信技術が生まれている今、子どもたちや保護者に「自己責任」としてすべてを負わせることには無理があるのではないでしょうか。社会全体で子どもたちを守れるよう、SNSやインターネットの利活用を前提とした一歩進んだ教育や、プラットフォームづくりが急務となっているのです。

本記事は後藤弘子氏(千葉大学大学院社会科学研究院教授)に監修していただきました。

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