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子どもの性被害認識には時間がかかる?~大人も含む平均は7年以上、中には30年かかる人も

更新日:2023.11.24

(本記事で使用されている「性被害」「性犯罪」の定義は「子どもは誰から性被害を受けている?」の記事と同様です。)


子どもは誰から性被害を受けている?」の記事では、子どもが様々な人から性被害を受けていることをお伝えしましたが、性被害が犯罪として処罰されるためには、まずは被害者が被害を警察などの捜査機関に訴え出ることが必要です。しかし、性被害は個人の性的尊厳に関わる極めてプライバシー性の高い問題であり、大人でも羞恥心を感じたり自責の念に駆られたりする傾向が強いため、身近な人にすら被害を相談しにくいという特性があります。

性被害認識まで平均7年以上

大人も含むデータですが、2019年の法務省の調査では、過去5年間に性被害に遭ったことがあると答えた人に対して「あなた又は誰かが、捜査機関に被害を届け出ましたか」と質問した結果、80%の人が被害を届け出ていませんでした。過去の調査でもおおむね75%近い割合の人が届け出ていないという結果になっています。

図1 法務省「第5回犯罪被害実態(暗数)調査」第2編,第2章を元に3keys作成

※この調査における「個人犯罪被害」とは個人単位での犯罪被害を調査したものであり、「世帯犯罪被害」とは「あなたや御家族」がその被害に遭ったかという問いで世帯単位での犯罪被害を調査したものである。
※この調査における「性的事件」とは、職場での性的な嫌がらせも含め、強制性交等*1、強制わいせつ*2、痴漢、セクハラ等をいい、法律上必ずしも処罰の対象とならない行為を含む。ただし、言葉による性的嫌がらせ、DV、児童虐待にあたる性的被害は含まない。


勇気を出して警察に被害を届け出ても証拠を揃えることが難しい被害は立証できないケースもあり、犯罪としてカウントされていない性被害は相当数に上るというのが専門家などの共通見解です。特に被害者が子どもの場合、知識の乏しさや判断力の弱さから、被害の認識すらできないケースも多いということは、想像に難くありません。

図2は性被害に遭った時の年齢と相談までの期間を調査したものです。この調査における相談先は警察に限らず、親、学校、知人・友人、児童相談所、医療機関、支援団体なども含まれていますが、それでも被害時の年齢が低いほど、相談までに時間がかかっていることが分かります。

図2 内閣府・男女共同参画局「2018年 若年層における性的な暴力に係る相談・支援
の在り方に関する調査研究事業 報告書
」p.22,表3-1を元に3keys作成

※相談先は警察、児童相談所、医療機関、親、学校、知人・友人、支援団体等
※この調査における「性被害」とは、性交等、わいせつ行為、画像・動画・音声の記録(児童ポルノ、リベンジポルノ)、児童買春、性交類似行為、AV出演強要(動画等流出被害、出演強要、契約強要)、その他の性暴力となっている。


子どもに限らないデータですが、性被害の当事者団体 Spring が2020年におこなったアンケート*3 では、性被害者の約半数は被害をすぐに認識することができず、認識するまでに平均で7年以上を有しており、中には30年以上かかったという人もいました。

身近な人からの性被害を訴え出る難しさ

子どもは誰から性被害を受けている?」の記事では、保護者や教員等を含めた身近な人からの性被害が少なくないことに触れましたが、特に加害者が保護者や親族の場合、子どもが被害を訴え出ることは簡単ではないでしょう。自分を守ってくれるはずの身近な人から被害を受けると、自分がされていることを嫌だと感じても「被害」だとは認識できなかったり、たとえ認識できたとしても、苦痛や恐怖に抗えない体験を繰り返して気力を失い、口止めされて逆らえなかったり、自分さえ黙っていれば家族が壊れなくてすむと考えたりして、なかなか周囲に相談することができないのです。

また、加害者が教師や部活動のコーチ、習い事の指導者、塾の講師などの場合も同様です。そうした立場の人間と子どもの間には、大人と子どもであることに加え権力関係が存在し、決して対等ではありません。「先生がそんなことをするはずがない」といった子どもの大人を信頼する気持ちを利用し、強い態度で従わせたり、恋愛だと思わせ自分が同意したと思わせたりした上で、加害することすらできてしまうのです。こうした手口はマインドコントロールの一種で「グルーミング(手なずけ)」といわれ、被害認識を遅らせる要因にもなります。

しかし、そうした被害者の実態があるにも関わらず、大人になって子どものときの被害や権利を認識できるようになり加害者を訴えたいと思っても、日本のこれまでの刑法では、性犯罪の公訴時効までの期間が短いために加害者を罪に問えないケースが多く見られました。

2023年の刑法改正のポイント

被害者の回復のためには、加害者が処罰されることも大切です。このような状況の改善を目指し、2023年7月13日、刑法の性犯罪規定を見直した改正案が施行されました。

今回の改正では、強制性交等罪と準強制性交等罪を統合し「不同意性交等罪」に、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪を統合し「不同意わいせつ罪」とし、同意がない性行為は犯罪になり得ると明確化されました。これまでは「暴行・脅迫」もしくは「抵抗できない理由」いずれかの要件のもとでしか罪に問うことができませんでしたが、被害者の状態や加害者との関係性を考慮し、罪の成立要件として具体的に8つの行為が明示されました。暴行・脅迫、心身の障害、アルコール・薬物の摂取、意識が不明瞭、拒絶するいとまを与えない、恐怖・驚愕のほか、虐待、経済的・社会的地位の利用の2つも含まれており、保護者や教員等からの性被害への対処も想定されています。

また、図3のとおり公訴時効は5年延長され、子どもが性被害を認識すること、認識しても声をあげることが難しいことなどを考慮し、18歳未満で被害に遭った場合は成人年齢である18歳までの時期が加算されます

図3 日本の性犯罪の公訴時効 
刑事訴訟法250条を元に3keys作成

イギリスやカナダはそもそも性犯罪に対する時効がないなど、諸外国と比較すると、改正されてもなお日本の時効は不十分だという声もあります。日本の時効期間が適切なのか施行後の見直しや実態調査は必須ですが、改正前と比較すると格段の進歩だとはいえるでしょう。

被害者の声に耳を傾けられる社会に

性被害は「魂の殺人」といわれます。被害後に深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などの症状が出ることも多く、特に子ども時代に性被害に遭うと、その後の心身や対人関係、さらには人生に大きな影響を及ぼすため、できるだけ早く適切なケアを受ける必要があります。

相談先としては警察や児童相談所などがありますが、内閣府では各都道府県に「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」も設置しています。被害者支援に精通したスタッフが警察へ同行、医療に繋ぐ、弁護士を紹介するなど、被害者を包括的に支える仕組みですが、子どもや男性の被害者への対応の充実が遅れている、予算が少なく相談に24時間対応していない都道府県がある、そもそも子どもたちへの周知が行き届いていないなど、十分に機能しているとはいえません。

図4 東京都総務局「犯罪被害者等支援事業等」を元に3keys作成

性被害に遭った子どもが勇気を出して被害を訴え出ても、周囲の大人に信じてもらえなかったり加害者ではなく被害者が悪いといった世間の誤った認識にさらされたりすることもあり、そうした反応によって二重に苦しめられる「セカンドレイプ」も問題になっています。性被害で苦しむ子どもを少しでも減らしていくためには、やっとの思いで助けを求めている被害者の声に耳を傾けられる世の中にしなくてはいけません。そのためにも、まずは性被害とは何かということ、被害者は悪くないということを、子どもを含め社会全体で共有することが必要です。被害者の実態に即した法律やサポート体制の整備が望まれます。


*1,*2 2023年7月13日に性犯罪の規定を見直す刑法改正案が施行され、強制性交等は準強制性交と統合して不同意性交等に、強制わいせつは準強制わいせつと統合して不同意わいせつに改正された。この調査は改正前である2019年実施のため、強制性交等、強制わいせつとなっている。
*3 性被害の実態調査 アンケート(一般社団法人Spring)p.19ー11.被害認識可否、12.被害認識年数

本記事は後藤弘子氏(千葉大学大学院社会科学研究院教授)に監修していただきました。

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