更新日:2021.3.20
未だ全容が見えづらい不登校の現状
小中学校で長期(年間30日以上)欠席した子どもは2019年度に25万2825人でした。これには様々な理由が含まれていますが、理由別で最も多いのは「不登校」で71.7%を占めます。2番目に多い「病気」は18.5%でした。不登校の児童生徒が、全体に占める割合は1.88%で、現在の調査方法に変わった1991年度と比べ3倍以上に高まりました。特に中学校年代の割合が高く2019年度には生徒全体の3.94%にあたる約12万7000人おり、割合は91年度比4倍の水準です。
これだけではありません。日本財団が2018年末に公表した調査によると、「登校はするが教室にはいかない」「教室に行っても他と違うことをする」といった「不登校傾向がある」子どもは、実際に長期欠席している子どもと別に約33万人います。不登校の陰には、その3倍もの学校になじめない層が隠れていることになります。
NHKは2019年、前年度に不登校または不登校傾向があった中学生に直接アンケート調査をしました。同様の調査は文部科学省も実施していますが、回答者は教員です。NHKは比較ができるよう、項目を文科省調査に揃えて実施。すると不登校の要因を尋ねた設問で大きな差が出ました。
不登校の要因が「家庭」にあるとする割合は文科省調査が30.8%だったのに対し、NHK調査では21%。一方、学校での「いじめ」は文科省が0.4%だったのに対してNHKは21%と大幅に上回り、また「教員との関係」も文科省の2.2%に対してNHKは23%でした。
ここで気を付けなくてはいけないのは、日本は小中学校は義務教育となっていますが、義務というのは子ども側に課されたものではありません。日本国憲法の第二十六条には、以下の2つが定められており、義務教育の「義務」は子ども側ではなく保護者側に「受けさせる義務」として課されたものなのです。日本で生まれ育つ限り、どんな子どもでも等しく教育を受ける「権利」があるのであって、子どもが義務を負っているわけではありません。
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
日本国憲法 第二十六条
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
また、2017年2月に「教育機会確保法」という法律が定められ、その中には学校を休む必要性や、不登校になった際にも教育が保障されることが盛り込まれています。不登校は既存の学校教育制度が子ども一人ひとりの教育を保障できていない結果であり、そういった子どもたちにも学校教育以外でも教育を保障していくことが法律で定められています。
ないものにされていた、いじめ
いじめの認知件数についても見てみます。2019年度に文部科学省の認知した小・中・高・特別支援学校でのいじめの件数は61万2496件で、5年連続で過去最高を更新しました。10年前の2009年度にはいじめの認知件数はわずか7万2778件で、この10年間で8倍以上に膨れ上がっています。特に小学校、それも低学年の認知件数が増えているのが近年の傾向です。
認知件数が急増しているのは、2013年度に「いじめ防止対策推進法」が公布されたことが背景にあります。
2011年、大津市の中学2年生が同級生らのいじめを苦に自殺。担任や学校は本人から相談や報告を受けていましたが、学校側は事件発覚当初いじめについて「知らなかった」「気づいていなかった」などと主張していたことから対応が問題視されました。この事件を受けて同法が国会で成立し、いじめの定義について「いじめられている側の視点に立つ」ことが明確化されました。またいじめに対する国の対処方針が、軽微なものも含めて積極的に学校が認知し、対策を講じることで事態の重大化・深刻化を防ぐというものになりました。
これにより、調査の回答者である学校や教育委員会が「いじめはないほうがいい」とする姿勢から「できるだけ認識する」姿勢へと変わったと考えられます。それに伴い、「冷やかしやからかい」「嫌なことを言われる」といったこれまでは見過ごされていたものもいじめとみなされるようになり、件数増加につながっています。小学校低学年の増加率が大きいのも、教室での悪口といったことが表面化し担任が把握しやすいことなどが要因だと考えられます。こうした方針転換により、それまで3-4割だった「いじめがあった」とする学校が全体に占める割合は、2019年度に82%に達しました。ちなみにいじめが発見されたきっかけは、同調査によれば全体の67%がアンケートなどによって「学校の教職員等が発見」したとされています。
文部科学省は、認知件数の増加については学校側が積極的に関わろうとしている結果だとして、肯定的に受け止める姿勢を示しています。ただ同調査での不登校や自殺、身体へのけが、財産の侵害といった「重大事態」の発生件数(※こちらは発生ベースです)は、19年度に前年度比121件増の723件でした。いじめが原因となった自殺者数は317人で、前年度の332人を下回ったものの平成以降で過去2番目に高い数値で、自殺という最も重大な事態が減っているとは言えない状況にあります。
学校がいじめを隠ぺいせず、積極的に認知しようとする姿勢に変わってきたことに関しては、専門家からも肯定的に受け止める声が出ています。他方、いじめを認知した学校の割合は都道府県で大きな差があり、取り組みへの温度差が指摘されています。また認知件数の増加が小学校低学年に偏っていることは、大人の目の届かない場所で行われる高学年のいじめについて、十分に把握できていない可能性も感じさせます。
文部科学省としては、いじめの認知件数が多い学校について、「いじめを初期段階のものも含めて積極的に認知し、その解消に向けた取組のスタートラインに立っている」と極めて肯定的に評価する。
文部科学省「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」 P.9
いじめを認知していない学校にあっては、・・・解消に向けた対策が何らとられることなく放置されたいじめが多数潜在する場合もあると懸念している。
18歳以下の自殺について言えば、夏休み明けに最も増えると指摘されています。夏休みに限らず長期休み明けには増える傾向があり、学校に通うこと自体が強いストレスと感じている子どもが多いことを示唆しています。
以前に比べれば、近年は若い世代を中心に「嫌なら必ずしも学校に行かなくてもいい」という価値観は広がりつつあります。新型コロナウイルスの流行に伴う授業のオンライン化の議論もあり、学習面でも通学の絶対性は徐々に薄れていることも確かです。ただ日本の教育や保育の仕組み、親の意識、社会全体の認識は通学・通園が前提になっていることは否定できません。日本では部活動など課外活動の多くも学校に依存しているため、学校に通わないことが機会損失となりやすい面もあります。
いじめや不登校がなくなるのならば、それは素晴らしいことでしょう。しかし仮にそれがすぐに実現できないとするならば、今、学校に通うことを苦に感じている子どもが不必要な不利益を被ることがないように別の仕組みを講じる必要があります。
- 出典1:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(R1)」p.68を元に3keys作成
- 出典2:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(R1)」p.71を元に3keys作成
- 出典3:日本財団「不登校傾向にある子どもの実態調査」p.6を元に3keys作成(注 同調査には、「教室で他と同じことをするが、学校に通いたくない、学校がつらいと感じている」という子を含んでいます。)
- 出典4:NHK 2019年のインターネット調査、文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(2017)」スライド89、不登校新聞を元に3keys作成
- 出典5:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(R1) 」p.25を元に3keys作成
- 出典6:文部科学省「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」p.8を元に3keys作成
- 出典7:文部科学省「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」p.9を元に3keys作成