更新日:2021.3.19
虐待ってどれくらいあるの?
厚生労働省によると、全国215カ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は2020年度の速報ベースで20万5029件でした。前年度比で5.8%増、20年前との比較では11.5倍以上になっています。特に近年は高い増加率で推移しています。
上記と別に、全国の市町村にあった児童虐待の相談件数は、2018年度で12万8816件でした。児童相談所に比べると少ないですが、件数自体は同様に増え続けています。同じ人が両方の窓口に相談しているケースもあり得るため、両方を単純合算したものを「虐待の件数」ととらえることはできませんが、少なくとも年間で児童相談所と全国の市区町村にそれぞれ10万件を超える虐待の相談が寄せられているのが今の日本の現状です。
ここでの虐待相談対応件数とは、児童相談所であれば相談を受け援助方針会議などの結果、なんらかの指導や措置をした件数になります。窓口に連絡はあったが指導や措置に至らなかった件数、あるいは窓口に相談がなかった事例は当然ながら含まれません。
またそもそも「虐待」の定義が「保護者によるもの」とされているため、学校などそのほかの場でのそれに類する行為は全く反映されません。虐待的行為は家庭以外にも子どもの生活の基盤である学校や保育施設などでも起きていますが、それが「虐待」と定義づけられていないため、全体として把握することが困難になっています。
また家庭も含め、虐待のほとんどは他人の目が届きにくい「密室」で起きています。児童相談所に寄せられた相談件数も、決してすべての虐待を網羅しているわけではありません。
※学校での体罰などがどれほどあるかは、別項で詳述しています
「虐待死」が統計の3倍以上ある可能性
2016年、日本小児学会は虐待で死亡した可能性がある子ども(15歳未満)に関する報告をしました。こうした研究報告は初めてでした。報告書では、虐待によって死に至った可能性のある子どもは年間350人に上ると試算。当時(2011~13年)に厚生労働省がまとめていた虐待死の子どもの数は無理心中も含め年間69~99人であり、学会は「多くの虐待死が見逃されている可能性がある」と指摘しました。当然、見逃されている可能性があるのは死に至らない虐待も同じです。
相談件数に表れない暗数の多さの一方で、統計にカウントされた「可視化された数値」をどうとらえるのかも難しい問題です。近年の増加の理由が、虐待や虐待相談をすることに対する社会の理解が深まったことで相談件数が増えて隠れていたものが表に出てきたものなのか、実際に虐待(と疑われるケース)が増えているから件数が増えているものなのかを明言することはできません。
「誰が、どんな虐待をしている?」で詳述しますが、近年、児童相談所に寄せられた虐待相談は警察経由のものが顕著に増えています。これは、夫婦間で起きたDVを子どもが目の当たりにした場合(面前DV)、それを警察が虐待の一種としてとらえ、児童相談所に連絡するようになったことが一因と言われます。このように、虐待と認知される行為の範囲が変わることでも件数は増減することがあり得ます。
ただいずれにせよ、世の中で虐待と認知された行為が急速に増えていることは確かです。また核家族化や世帯人数の減少、生活様式の都市化、プライバシー保護などによって、他人の目が入らない空間も増えています。そのことで、虐待が起きやすい状況が生まれているとも言うことができます。
- 出典1:厚生労働省「市町村・都道府県における子ども家庭相談支援体制の整備に関する取組状況について」 p.1を元に3keys作成
- 出典2:厚生労働省「市町村・都道府県における子ども家庭相談支援体制の整備に関する取組状況について」 p.8、e-Stat 福祉行政報告例(2018年度)を元に3keys作成
- 出典3:厚生労働省「児童虐待による死亡事例の推移」 p.1、日本小児学会 2016年報告を元に3keys作成