3keysでは、非交流型の居場所に対する思春期世代のニーズをより詳しく理解するため、中高生を中心に4,000人を対象とした調査をおこないました。本シリーズではこの調査に携わった4名の検討委員の方々に、調査結果や非交流型の居場所の重要性について伺います。
今回お話を伺うのは児童館をはじめとする様々な児童福祉の現場に関わり、一時保護所を含む児童相談所の開設などにも携わった経験がある元港区子ども家庭支援センター所長 保志幸子氏。現場の視点から非交流型の居場所へのニーズやあり方について探っていきます。

関わりを求めない子どもが見えにくくなる構造とは?
――まずはこれまで思春期の子どもとどういった形で関わってこられたのか、伺えますか?
最初の26年は児童館で働いていましたが、働き始めた当時は子どもの遊び場という側面が強かったので、一輪車やローラースケートなどの遊びの技術を身につける努力をしていました。それが、時代とともに福祉的な機能も求められるようになって、子どもと話したり、保護者の方と関わったりする機会も増えていきました。
最後に館長をした台場の児童館は、街がつくられるのと同時にできた施設だったので、地域のつながりの拠点として、多くの保護者だけでなく保育園や幼稚園、小中学校、NPOとも連携しながら「地域の子育て力の向上」を目指しました。少数ですが中高生になっても児童館に来館してくれる子もいて、学校でのトラブルや友人関係の悩み、家庭の問題を打ち明ける子どもと話し込むこともありましたね。
その後、私は子ども家庭支援センターと児童相談所に異動しましたが、そこで相談や介入という形で関わった子どもたちは、最初は一言も口を利いてくれないこともありました。幼少期から抱えてきた問題が思春期になって顕在化する姿を見ると、何とか大人になる前の今、力になりたいと思いました。
――今回のテーマは非交流ですが、つながりを作ることが使命となっている児童館で、そこに来ない子どもに目を向けるのはなかなか難しいですよね?
そうですね。中高生になり多くの子が児童館に来なくなると、職員からは子どもの様子が見えなくなっていきます。子どももずっと大人に見ていてほしいわけではないだろうと思っていました。
もちろん、児童館を卒業しても地域の子どもでなくなるわけではないので、もし重大な問題があれば、しかるべき機関が対応します。ただ、かつての支援機関では生死に関わるような重大な問題が解決すれば、あとは本人や家庭に任せることが多かったです。結果として、苦悩が続いていても見えなかったこともあったかもしれません。
今回の調査結果を見て、子どもたち自身が今の社会に冷たさを感じ、自分たちを見てくれていない不安を持っていたことが分かり、当時を振り返って反省した部分もありました。
思春期の子どもの心にかかっているストレス
――今回の調査では一人で静かに過ごしたいという思春期世代のニーズが見えてきましたが、その結果をご覧になってどのように思われましたか?
一人でいられる場所を求める子どもの多さに最初は驚きましたが、これまで出会った子どもたちを思うと納得できる部分もありました。
思春期の子どもは未来に向かって新しい自分をつくり始めます。自分との闘いが始まって不安定になりやすいなか、特に友達との関わりにも気を遣うのですごく大変な時期です。今はSNSなどの刺激も加わり、心がザワザワして整理がつきにくくなっている気がします。そんな時、家で「あれやったの?」「こうしなさい」と責められたり、周りの人に気を遣ったりすることは大きな負担です。静かに自分と向き合える環境がほしいというのは当然だと思います。
傍目にはそう見えなくても、子どもはすごくたくさんのことを考えています。親に対しても「こんなことを言ったら心配をかけるんじゃないか」と気を遣ったり、町中でも親子連れに気づいて何か親切にしなきゃいけないんじゃないかとソワソワしたり。
でも、児童相談所の一時保護所に来た子を見ていてすごいなと思ったのが、家を離れて最初は混乱していた子が、淡々と生活するうちに自分を見つめ直して、2ヶ月ぐらいすると別人のようにクリアに話すようになったことがありました。傷ついている子だから力がないなんていうことはまったくなくて、自分に向き合える静かな時間と安全な場、見守ってくれる人が必要だったのだと思いました。
私は家に居場所がない子どもはもちろんですが、普段活動的に交流活動をしている子どもにも一人で静かに過ごせる居場所は必要だと思っています。大人だってひとり時間に自分を取り戻して、仕事や家庭の役割を果たしているということもありますよね。
子どもの心に届くのは優れた言葉だけではない
――もし非交流型の居場所をつくるとしたら、運営側は何をすればよいのでしょうか?ただ静かな部屋をつくるというのも違う気がします。
居場所では「人」がとても大事だと思いますが、「場所」の持っている力も思っている以上に大きいと思います。夜に来てもいい、朝早く来てもいい、スマホの充電をしてもいい…場所が発するメッセージというのは大きいと思うんです。
港区で児童相談所をつくった時にもそのことはすごく意識しました。国産木材をふんだんに使い、子どもっぽい色づかいにはせず落ち着いたベージュのトーンでまとめて、植栽も季節ごとにどの花が咲いて、建物の中に入っていく時にどんな香りがするのかまで考えました。
子どもって、その場所を整えている人を見るだけでも癒されると思うんです。本棚が整頓してある、食べる場所では食べやすいように工夫されている、そういったことからも「この人は私たちのために仕事をしている、私たちを待っている」ということは十分伝わると思うんですよね。
支援の仕事については、どうしても魔法のように心をほぐす言葉を言う支援者が立派なように思われがちですけれど、実はその場を整えている人の存在って、子どもに対してものすごく強くメッセージを発していると思います。
――場所へのこだわりを形にしていく時に壁はなかったのでしょうか?
港区が児童相談所を開設する時は区全体が応援団のような状況で、恵まれていたところもあったと思います。でも、それだけではなくて、そうやって準備していると楽しいんですよ。もちろん予算があるので、その範囲内に抑える工夫は必要ですし、検討することは多々あるんですけど、来てくれる子どもにどうやったらくつろいでもらえるかと考えながらあれこれ整えていくのは楽しいです。一緒にやってくれた関係課や事業者さんもとても嬉しそうでした。
このようにつくった場所で働いて、子どもを見ていたら、多くの情報が得られると思うんです。ここに座ってほしかったけどこれだと寝てしまうんだなとか、このセッティングだと一人で来た子が食事をしにくいんだなとか、子どもが行動で教えてくれることがあります。
そんな中で何気ないやり取りが生まれることがありますよね。「前にいつ来たか覚えてる?」と子どもが聞いてきた時に「うん、覚えてるよ」と答えるだけでもあたたかい空気が生まれるので、直接的な相談や対話が多くなくても、子どもの理解につながるヒントは溢れてると思うんです。

保志幸子
元港区子ども家庭支援センター 所長
現こども家庭審議会児童福祉文化分科会専門委員。元港区児童相談所児童相談課長、港区子ども家庭支援センター所長。元特別区職員研修所教務第2課長・講師
Child Issue Seminar 開催のお知らせ
本記事でご紹介した4,000人アンケート調査についての詳細な報告をはじめ、豪華ゲストによる基調講演、3keys代表・森山も登壇するパネルディスカッションなどから、今の思春期世代が抱える課題について、それを支えるかたちについて、多角的に考えるセミナーを開催いたします。ぜひご参加ください!(後日、アーカイブ配信もございます。)
【大阪】2026年10月28日(水) 14:00〜17:00
【札幌】2026年11月26日(木) 12:30〜15:30
会場参加 無料/アーカイブ視聴(資料付き)個人2,000円、団体5,000円
▼詳細・お申し込みはこちら
https://3keys.jp/news/13932/


このコーナーは、オートレースの補助を受けて連載しています。